「21世紀の繁盛店とそのデザイナーの役割」

 
第19回(社)インテリア産業協会中部支部通常総会記念講演会
「21世紀の繁盛店とそのデザイナーの役割」 レポート
神谷デザイン事務所 代表取締役  神谷利徳
 

上記のようなタイトルで、去る5月27日メルパルク名古屋において講演が行われました。インテリア産業協会中部支部の通常総会記念講演会です。その内容を今回レポートいたします。
なるべく話しの内容をそのままお伝えするため、神谷さんが直接話されているような形式になっていますが、あくまでも私の記憶とメモで書いていますので、神谷さんの意図されることと違うこともまま有ると思いますが了承ください。(藤嶋)

■ものから心の時代へ

産業革命の時代から世界はいかに効率よく多くのものを生産するかに努力し、実際日本においてもそのように突き進んできた。高度成長時代はその典型である。しかし10余年前のバブル崩壊によりそれまでよいと言われて来た価値観が本当に人間の生活を豊かにしているのだろうかという疑問が人々の間に生まれてきた。人々は長い経済的低迷の中で常に「不安」を意識しその「不安」から逃れるためものよりも精神的な安息感を満たしてくれるものを求めている。
レストランで言えば「おいしい料理」「お洒落なインテリア」「気の利いた器」だけを求めていたころに比べ今はただおいしいだけでは満足しない。そこにプラスアルファーの部分、それは「大切なひととの時間の共有」であったり、安心感を得られるその場の雰囲気そのものであったりする。
ではどうすれば人々に安心感や安らぎを与えられるのであろうか。それは第一に「謙虚さ」である。お仕着せがましいサービスは相手にすぐに見抜かれる。相手のことを常に考え、その人の人生の一こまに自分がいかに有意義な時間を提供できるかに心を常に置くことである。そうすることでお仕着せがましさはなくなり、自分からにじみ出るような謙虚さで人に安心感を与えられる。

■メンテナンスとブランディング

メンテナンスというと、例えば住宅の設備周りの不備の修理、や建物そのものの不具合の修理などが一般には考えられる。しかしここで言うのはそういうことだけでなく、もう少し踏み込んだメンテナンスの重要性である。単に不具合を修理するというよりも、その人のライフスタイルに対してのフォローが私の考えるメンテナンスである。その人の人生をどういろどるかを常に考えてフォローしていくことが大切である。その結果としてブランドを確立することが出来る。ブランドとは安心感である。
例えばルイヴィトンは確かに創立時その類まれなるデザイン力で人気を集めたかもしれない。でも今そこのデザイナーが誰かを知ってみんなが買っているわけではない。長い間に確立されたルイヴィトンに対する「安心感」によって人々は購入する。ブラインドの力のバックボーンはメンテナンス力なのである。私のところで言えば、以前はどこそこのあの店のような店を造って欲しいと言う話しが多かったけれども、今はそのようなケースはむしろ少なく、今までに無いような店を考えてほしいというようなことが多くなった。これなどもメンテナンスによってある程度ブランド力が付いてきた証と思う。

■素材のもつ力

デザインすなわちどういう形をつくるか、どういう色にするかというようなことが今までは多く問題とされてきたけれども今の時代は材料そのものがもつ力をどう引き出すかが重要である。多くの場合素材の中でも天然素材がその力が大きいように思う。土のもつ力、木の持つ力、紙の持つ力などなどは現代の工業が作り出した材料よりも大きな力をもっているように思う。そんなわけでそのような材料を多く使っている。なまじっかのデザインよりもより多くのエネルギーをその材料そのものが発してくれる。天然素材であるからそういった意味での不都合はあるけれどもそれは大きな問題では無いと思う。天然素材であるからこそ長い年月に耐えられますますその価値を高めていくのではないかと思う。

■これからのデザイナーの役割

今までデザイナーの役割といえば「かっこいいもの」「洗練されたもの」などを作り出すことであったが これからは大げさに言えば地球全体を考えたデザインをすることである。近頃エコロジーが多く叫ばれるけれども私たちの場合でも無縁でいられない。
しかし、多くの場合「はやり」として捉えその本当の大切さを理解していない。一過性の「流行」として捉えるのではなく地球の未来に向けた重要なステップとして据えないといけないのではないかと思う。
一方「健康・安全」などが今までは「ダサい」こととして捕らえられてきた。本来人間が生活してゆくためにはとても大切なことなのに。そうであるならもっと人々が、若い人まで含めて受け入れられやすい形にデザインすることがデザイナーの仕事である。いままで躊躇していた若者も手を出しやすい「健康」「安心」「安全」を作り出すことがデザイナーの使命ではないであろうか。真に謙虚な気持ちで地球全体の未来にどう貢献するかを考えデザインできるデザイナーがこれからますます求められる。そしてそういう気持ちで仕事に臨むことが最も大切なこ事ではないかと思う。