研修旅行レポート 2003

一日目


当日はあいにくの天気で朝から雨でした。今まで雨であったことはなく初めての雨ということです。しかしこれから訪ねる奈良井宿などのことを考えれば、建築写真などではおおかた水を打って撮影するので、しっとりとしていい状態で見学出来たのかもしれません。参加者は男3名女13名の総勢16人でした。行きのバスはサロンカーで、わいわいがやがやとしている間に目的地の奈良井宿に到着しました。ルートは東名豊川~中央道塩尻~国道19号線で約4時間かかりました。自家用車などで行けばもう少し早く行けるのではないかと思います。


奈良井宿は戦国時代から宿場町として成立し1602年の伝馬制に伴い中仙道六十七宿の一つとして大いに栄えました。それは中仙道最大の難所といわれた「鳥居峠」を控え旅人がここで峠越えに備えたからといわれています。その賑わいから「奈良井千軒」と言われていたそうです。南北約1キロメートル、東西200メートルの区域が宿のあった区域ですが今でも当時の面影を残しています。建物は中2階建て言われる特徴をもっています。低い2階建ての前面を張り出して縁とし勾配の緩い屋根を架け深い軒を作っています。

  

屋根は「石置屋根」といわれる葺き方で栗などの板を置いてその板を石で押えています。
ただ近年は鉄板で葺くのが一般的だということです。右端の写真は先日新聞にも載っていた庇です。新聞では鉄の金物で引っ張っていましたがそうでないものも多く見かけました。多分最近まで無かったのでしょう。そして垂木?が上部についています。ちょっと不思議な構成ですが斎藤さんによると泥棒が手をかけ登ろうとすると庇が落ち盗難を未然に防ぐという意味だそうです。新聞でもそのような説明がありました。もう一つ理由が書いてあったような気がしますが・・・・忘れました。

一番左端の写真をみると電柱が一本もありません。昭和40年頃からこの地域を保存整備しようという地域住民の努力で裏側に全て移したそうです。改めて電柱の無い風景の美しさを再認識させられます。

話しは変わりますが宿場全体は1キロほどあるのですが一部の上級宿以外は当時の安宿です。真ん中に3尺の通路がありその両脇に1間のムシロを敷きます。そして旅人はわらじも脱がず足は通路に出して寝たのだそうです。そして起きたらすぐに出発ということなんでしょう。当時は間口が基本として2.5間だったらしいのでとても合理的に使っていたということなんでしょうか・・・。もちろん財力のある人は隣を買って大きな家を建てていたようです。とアルテックの斎藤さんに教えていただきました。


昼食は斎藤さんお勧めの料理屋「徳利屋」さん。
この建物もやはり古い建物で通り側には格子戸がはまっています。
料理も郷土色あふれるとてもおいしいものでした。
ビールは斎藤さんのおごりm(__)m

   

左端は店のど真ん中にある囲炉裏。この上は当然天井は張ってなくて小屋組みが見えています。

真ん中は食事に出てきた五平餅。ちょっとわかりにくいですが茶色いのがくるみ、黒いの(上)?が味噌、もう一つの黒いのがごまです。どれも美味でした。

右端の写真は店主が自分で作りなおかつ漆を塗ったという式台。下に見え ているのは土間の三和土(タタキ)。濃い部分と薄い部分がありますが塗った当時は全体が濃いところのような色だったそうです。が次第に薄くなって今の ような色になったそうです。ちなみに作ってから5、6年経っているそうです。その時の話しです。当然工事をするのはシーズンオフの冬場になる訳ですが
冬は乾燥します。普通の塗料であればそれでいいのですが硬化に湿気が必要な漆にはあまりいい季節ではありません。そこで店主はしかたなく外から雪を大量に土間に運び入れそれを溶かして湿度をあげて硬化させたそうです。楽しげにお話ししてくださいました。


食事をとったお店の2階を見せてもらい、アルテック社の社長である斎藤さんに説明していただいているところです。天井は2100程でとても低い印象です。通り側には格子戸が入っています。余談ですが斎藤さんはとても気さくな方で漆の事に限らずいろいろな事にもとても博学で、今回大変お世話になると同時に大変勉強になりました。

そういえばこの地は桧の産地ですが桧は尾張藩がしっかり管理していて、使う事は出来ずこのあたりの建物は杉、栂を中心に作られているそうです。


今回見学させていただいた前記斎藤さんが社長を務めておられる「アルテック」社です。奈良井宿から歩いて5,6分のところに有ります。内部にはアルテック社の製品の、家具、壁紙、床材などの板材、 金物などがとてもセンス良く展示されています。内部の様子はホームページにありますのでご覧下さい。
http://www.kiso-artech.co.jp/


「セミナー」風景

大きなテーブル厚み2,30センチ長さ6,7メートル巾1.5メートルくらいの大テーブルがまさしく’どん’と据えてあります。そこで社長の奥さんの手作りの料理をいただきながらいろいろな
話しを聞かせていただくことが出来ました。計らずもセミナー状態です。

  

左上
アルテック社の製品である壁紙の説明を受けているところです。
壁紙をつくるようになったのはあるときコンクリートブロック表しの仕上を施主が気に入らず、何とかならないかという設計者の相談があったのだそうです。そこで思案の末思いついたのが、漆をろ過する時に使った和紙を張ったらどうかということでした。その案は採用され事なきを得たというわけです。そのことからそれなら別にろ過に使った和紙でなくてもはじめから和紙に漆をぬったらどうかということになり現在の製品にたどりついたということです。

漆は漆の樹液の訳ですがそれをろ過して初めて塗装用の漆となるのだそうです。
そのとき使う和紙は8枚で4枚は捨て残りは防水紙としてもともと売られていたそうです。
上記はその和紙をブロックに張ったという話しです。
機会があれば使ってみたい雰囲気をもった製品でした。

真ん中
セミナーの時出していただいたお菓子
朴の葉に包まれた柏餅のようなお菓子です。このあたり(三河)でも朴の葉に包んでいるのを
よく見かけますがただこの写真のように鑑賞に堪えうるような包み方をしているものは、見たことがありません。これが一段上の段の写真に小さく写っているように朴の木そのままの形で(風車のように)出されました。
おしゃれ!同じような物でもちょっとした工夫で良くなる見本。

※朴の木:大きな葉を持つモクレン科の植物
    葉の大きさは大きなもので30㎝くらいになります。
    このあたりでは昔から朴葉を食物を盛る葉に使ってきました。またミソ
    などを焼くフライパン代わりにも使ってきました。朴葉味噌は有名です。
    朴葉で焼くと葉の香りがしみこみ香りの良いものになるといいます。
    また、葉には殺菌作用があり、朴葉すしなどが作られています。

右端
漆には適度な温度と適度な湿度が必要です。
というわけで製品はそのように制御された部屋で硬化させるということです。


アルテック社の女子用便所
カウンターに漆が塗ってあります。壁はわかりにくいですが漆塗りの和紙が張ってあります。防水効果のある漆ならではの使い方と思います。

アルテック社斎藤さんのお話しあれこれ

■漆の現状
現在漆器製品の多くは中国から輸入されています。すこし製品的に劣っているとはいっても国産の製品で千円するものが7,80円で輸入されているわけです。そんな中で普通に漆器製品を作っていく今までのやり方では大変難しいというのが現状です。アルテックではそんな中で建築関連の製品を開発しそちら方面に活路を見出そうとしています。

■漆あれこれ1

漆の木はインド~ミャンマー、中国、日本の青森までアジア一体に分布しています。その中で日本の漆は純度が高くすぐれています。中国なども日本のものと似ています。純度が高いという事は強く、そしてかつ透明度が高いということです。南国の漆はゴムの量が多く刷毛では塗りにくい特徴をもっています。

■漆あれこれ2

漆はどんな薬品にも強く防水性能もすぐれています。ただ紫外線には弱いので屋外には向きません。
 
■漆あれこれ3

漆は中国に於いてはその防水性能の高さから木や土の容器に塗って使われていたようです。日本では平安末期から室町時代にかけて使われるようになったようです。江戸時代になると平和な時代が続くわけですがその中でいろいろな器や刀などの工芸品に多く使われるようになりました。顔料を混ぜいろいろな色が使われるようになったのもこの頃です。蒔絵などもさらに発展しました。
 
※蒔絵:金銀粉や螺鈿を漆を接着剤の代わりとして模様を描く技法。
漆の上に金銀を蒔くので蒔絵と言われます。

■漆あれこれ4

昔から金持ちや代官屋敷などでは便所などに漆を塗っていたのですが、そこに出入りしていた人がそれをみて真似をし一般に広まってきたようです。それまでは安いこともあり柿渋などが使われていました。

■漆あれこれ5

石川県や福井県、富山県では漆が発展したのですがどうしてかというと、この地域は湿度が高く、「家の中を水が流れている」というような表現でも大げさでないような環境だったらしいのです。
そんな中では木が腐ってしまう訳です。そこで湿度が高くても硬化ししかも防水能力の高い漆を早くから使っていたわけです。今でも富山あたりの大きな家では使われているそうです。

■漆あれこれ6

ここ楢川村でどうして漆が盛んかというとそれは漆の産地という訳ではなく、もともと平地の少ないこの地での産業振興のの一つとして漆に注目し、国の奨励の元に発展してきました。
  
■漆あれこれ7

漆にかぶれは付き物ですがむかしから見ただけでかぶれるなどと言います。あれはあながち嘘ではなく葉からもエキスが出ているわけですがそんな時その風下にいれば 弱い人はたちどころにかぶれてしまう訳です。



といったことで今回の旅行の1日目の報告をしました。何気なく訪れた奈良井宿、アルテック社でしたがとても参考になりまた勉強になった一日でした。この地からそんなに遠くは無いのでもし何かの機会が有
れば再度訪れてみたいと思わせるに充分な旅でした。アルテックの斎藤さんどうもありがとうございました。

左の写真はアルテック社の壁にかけられていた花です。どこにでもありそうな草花ですが絵になっています。