使う側の人から聞く望ましいバリアフリーの形と形態


 

さる7月24日(土)に第3回セミナー「使う側の人から聞く望ましいバリアフリーの形と形態」が開かれました。今回の講師はかねてお知らせしましたように「AJU自立の家サマリアハウスデイセンター」の施設長浅井 貴代子氏(写真右)でした。なかなか聞く事の出来ない貴重なお話を聞かせていただくことが出来たと思います。また当日は浅井さんと一緒に活動しておられ、障害者の方のための住まいの改造などに数多くかかわっておられるICの納戸さん(写真左)も参加してくださり、実際に計画にかかわっておられる立場からのお話も聞くことが出来ました。

JU自立の家の事

AJU自立の家は15年位前に設立されましたがそれよりずっと前から障害者の自立のための施設を作りたかったということです。
どうしてそれまでの施設ではあき足らなかったというとそこは障害者の自立というよりもそこで働く人たちのための施設という面が強いと感じたからだそうです。なにかしようとすると必ず「一人で出来るの?」「何かあったらどうするの」という声が返ってきて障害者は我慢するしかないのが現状です。食事や風呂、寝る事など生活の基本的なこともそこに働く人たちのリズムに合わせてあり「好きなときに食事をしたい、風呂に入りたい」など健常者では普通の事も施設ではできません。そしてたとえば入浴などの時恥ずかしいなどという感情は無視され”物”を手早く洗うと言うような状態だそうです。

そんななかで「本当に自立出来ないのだろうか?試してみたい」「本当の生活の場を持ちたい」という気持ちで実験の場として「AJU自立の家」を設立されました。
当初はいろいろな専門家を交え約5年間勉強会を持たれたそうです。そして15年で67人の障害者の方が自立していいかれたそうです。

自立のための苦労

いざ自立というと難問が次から次へと湧いてきます。まず住む場所、想像は出来ますが、アパートなりマンションなりを探すのがとても大変なのだそうです。50件100件とあたっても障害者を入居させてなにかあったら困るから」と言うような理由でなかなか見つかりません。仮に見つかったとしても次に問題になるのは改造の事だそうです。
障害を持った人が住むためにはどうしても改造は避けて通れないわけですが改造すると言う事をたいていの家主は嫌います。さらに補助金という面でもハードルが立ちはだかります。
例えば玄関、「自分の家に自分で入れないなどということはおかしい」と言う事で自動ドアーへの改造を希望したとします。
改修に際しては補助金が出るのですが「自動ドアーへの改造はぜいたく」と言う理由で受け付けられなかったそうです。

そしていろいろな改造が運良く出来る事になったとして最後に問題になるのが「現状復帰」という問題です。「元のような状態にして返す。」という難問にぶち当たります。このように話を聞いていて障害者が自立の場を獲得する事は健常者が想像する以上にとても大変なことなのだと感じます。

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現在の障害者の状況をお話くださったあとこちらで用意した質問に答えると言う形で、さらにいろいろなお話を聞かせていただくことが出来ました。

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質問1)
いろいろな設備(手摺・点字ブロックなど)に接して「健常者が考えたものだなー」と感じられるようなことが有りますか。

答え)
そのような事をかんじらることは有ります。たとえば便所に車椅子に入り便座に座ります。そこまでもとても大変なのですが、その後ズボンなり下着なりを降ろすのがさらに大変なわけです。お尻をあっちこっち動かしながら着ているものをおろすわけですがその間にセンサーがその動きを感知し水を流しつづけます。多いときには20回くらい流れます。便座に座るという事までしか考慮されていないわけです。
それから車椅子の場合開きの扉は非常に使いにくいものです。手前に開く場合はドアを持って後ずさりする形になりますが足が効かないので踏ん張られずとても大変です。そのための手摺が有ればと思うくらいです。

質問2)
ハートビル法が制定されて10年以上経ちますが近年行動しやすくなったと感じられることが有りますか。

答え)
昔に比べるととてもよくなりました。特に国内旅行などしようと思っても昔は不可能に近い状態でした。また公の場での行動も楽になりました。

質問3)
久々の生活の中で、便所、風呂などこうすればもっと使いやすいのにというような事をかんじる事が有りますか。
質問4)
仕上材料などでこういう仕上はよくないというような物がありますか。

答え)
障害の種類によって一概に言えません。仕上についても一長一短が有ります。やはり失敗しないためには使う人は当然ですがいろいろな人の意見を聞いて慎重に決定してほしいと思います。それと障害者に限らず人間年をとってゆけば体の自由が効かなくなっていきます。その時間の経過を見据えて計画することが大切だと思います。

質問5)
外国などと比べて障害者に対する配慮は日本の場合どうでしょう。

答え)
まず諸外国では養護学校が無い事が多いです。というのは分けていないということです。アメリカなどADA法と言う法律で障害者に対しての差別の禁止などについて定めています。
日本ではもともと「当事者主権」(自分の事は自分で決める。障害者の場合その人本人ではなく廻りがその人の事を決めると言うような事が行われてきた。)というような考え方がなくこれからはやはり当事者が声を大にして言いたい事を主張して行かなければいけないと思います。高齢者ももっと当事者として自分たちがしたい事を廻りに伝えるよにすればいいと思います。我慢するのが美徳というような価値観から抜け出さないといけないと思います。

質問6)
公共の施設やスーパーの入り口に点字ブロックを被って足拭きマットのしいて有る光景をよく目にしますが、車椅子使用者にとっても、また視覚障害者にとっても問題ありませんか。

答え)
問題あると思います。それと点字ブロックですがその設置の仕方が間違っているものがよく有ります。直進のブロックに沿ってゆくと壁に当たってしまうなどと言う場合です。

質問7)
公共施設やスーパーのトイレで身障者マークと一緒に高齢者のマークや赤ちゃんのオムツ換えマークのついているところが有りますが元気な高齢者や子供連れの家族が占領してしまうと言うことが多々見られます。オムツ換えコーナーはぜひ身障者トイレとは別に設けてほしいものですがいかがでしょう。

答え)

やはり子供連れの方が使う場合長い時間を使うので不便を感じることが有ります。今度中部国際空港が出来ますがその中のトイレについて私たちもかかわっていて、あそこのトイレは身障者用というものが特に無く全て身障者が利用できるようになっています。一度見学してみてください。

質問8)
身障者方の家を計画するときヒヤリングするわけですがどうしても遠慮がちになります。どの辺りまで聞いてかまわないものなのでしょうか。

答え)
それは疑問なところは全て聞いて計画しないとまずいと思います。その計画がその人のためにするものですからその人にとって使いやすい物を作る事が第一です。であればその人の生活について疑問な点が有ればしっかり聞いて解決してあげて下さい。

浅井さんの印象に残った話し

 

○ 介護保険とは自立の概念が違う
介護保険…・介助を使わないのが自立
障害者……・・介助を使いながらしたい事をする。

介護保険で自立というのはいかに介助を使わずに生活できるかということですが障害者にとっての自立は  介助を使いながらしたい事をすると言うことです。「したい事をする」というと「みんなしたい事なんかしていない。いろいろ我慢しながら生きているんだ」ということをいわれる方がいますが、したい事の意味が違います。健常者にとってやろうとすればできる「車に乗る、バスに乗る、喫茶店に入る、旅行に行く」などいうことも障害者にとってはすべてとても大変なことです。車椅子で入れる喫茶店一つ探すのも大変です。

○ 人に物を頼むのは大変
よく自分で決めて何かをするのは大変といいますが人に物を頼むのはそれ以上に大変です。

○ 一度車椅子に乗って半日でもいいから街に出てください
いろいろ机の上で考えるより一度車椅子に乗って街にでるといろいろな事がわかると思います。ぜひ薦めます。

○ 障害のない人はいない
みなさんメガネをかけていますがそれだって障害のひとつです。そしてさらに年をとってゆけば足腰が弱くなり若いときに出来た事も難しくなったりします。
時の変化を見越した設計が必要になると思います。


以上当日の内容をまとめてみました。障害者の方のみならずこのような内容は高齢者になる私たち自身にもかかわってくる問題です。これを機会により関心を持っていただければとおもいます。それから当日いただいたパンフレットをこちらに置きましたのでご覧下さい。
AJU自立の家でリフォームの相談に乗っていただけます。そのような計画に関わったとき机の上であれこれ考えるよりも適切なアドバイスが得られるかもしれません。またAJU自立の家がかかわっておられるワインの紹介などもあります。味は保障付とのことです。ご覧下さい。